2023年10月11日(水)20:00-21:00@zoomにて、これからの地域づくりテーマ勉強会を開催しました。
今回のテーマは「個々人に最適な学びを地域で広げるには」です。時代の変化に合わせて、今どのような学びの機会が地域にあるのかという話を伺える会となりました。
《開催概要》
開催日:2023年10月11日(水)20:00-21:00
参加者:9名
活動紹介:2名
①「”学校”を考える対話の場をつくる」
西山良子さん 不登校・行き渋りの親の会「となりのチカラ」
②「佐久平まるごとキャンパスにおける超高齢社会体験ゲームの紹介」
宮下尚輝さん 佐久総合病院 総合診療科
事務局:長野県地域振興課、(株)エンパブリック
1. はじめに
今回も「まちむら対話と共創チャレンジ2023」のステップ2を進めていきます。
今年度からスタートしている「しあわせ信州創造プラン3.0」の中にもある、「個人の最適の学びを地域で広げるには」をテーマにお話しいただきます。
大きな時代の変化の中で、子どもたちの置かれている環境、学校の意味など、「学び」のあり方が多様になったり、それにあたって従来の考え方では対応できない問題も増えてきました。
2. 長野県の課題・現状について
はじめに、長野県教育政策課の石川氏より、「個々人に最適な学び」の実現に向けた長野県の現状と課題について説明がありました。
■ 社会背景と情勢
・人口減少・少子高齢化時代、VUCA時代(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を包含する概念である。コロナの流行や戦争など先が読めない時代)に加えて、人の価値観が様々である「多様性の時代」という時代の変化も大きく影響しています。
■ 現状と課題
・従来の同一教室、同一内容、同一進度による学び方が多様化の弊害となってきていることに加え、様々な家庭環境による子どもが抱える困難の多様化・複雑化(例:発達障害の顕在化、ヤングケアラー、虐待、貧困など)中山間地域、過疎地域での人口減少下の学びの場や質の保障など、子どもたちの置かれている環境の違いから必要とされているものも違ってきます。
・さらに、不登校児がとても増えているというデータも出ています。
5年前と比べて小学校は2倍以上(約2100人)、中学生は1.7倍(約3600人)、高校生は1.5倍(約950人)となっており、非常に大きな課題です。
以前はいじめによる不登校などが注目されがちだったが、今は価値観が多様になるに伴って、学び方も多様になっていると考えらています。
■ 今後の方向性
・知事の答弁にもあるように、個別最適な学びとは、「一人ひとりが、自分の特性や興味関心などに合わせて、自分のペース、自分に合った方法で学ぶこと」と定義しており、その個別最適な学びへの転換のために、下記の2点を特に重視しています。
1. 個々の特性や状況に応じた適切な支援
児童生徒一人ひとりのニーズ、個性・認知・発達の特性を包み込む授業のあり方や、個々の 特性を把握するアセスメント法等について実証的に研究している。 もっと学びたい子どもに向けて、企業や大学等の幅広い外部人材(専門人材)から学べる機会の創出・拡充
2. 学校以外も含めた多様な学びの選択肢の充実
> 不登校児童生徒や児童生徒一人ひとりの学びのニーズに応える多様な学びの選択肢を提供(例:校内サポートルーム、教育支援センター、フリースクール、オンライン)
3. 活動紹介
続いて、地域で活動の実践をおこなっている方から、活動の紹介を活動する上で感じていることをご紹介いただきました。
「”学校”を考える対話の場をつくる」
西山良子さん 不登校・行き渋りの親の会「となりのチカラ」
■ 自己紹介:
豊野町で、不登校・行き渋りお子さんを持つ親の会をやっています。代表の西山です。
2年前に開講されていた、対話で地域課題を解決するというテーマの際に、「まちむらファシリテーター養成講座」を受講したご縁で、今日の活動につながっていると思います。
このような機会を頂けて楽しみにしてきました。
■ となりのチカラの紹介:
・最初は、豊野町でお母さん3人から始まったおしゃべり会でした。そこから、口コミでお母さん同士で声を掛け合って続々と参加者が集まり、不登校児を持つ親の会として、2021年2月から活動しています。
・親同士のおしゃべり会
・先生とのおしゃべり会
・専門家を招いての相談会(スクールカウンセラー、相談員の方など)
・子供の居場所・まなび場
など、おしゃべり相談会みたいな感じで気楽におしゃべりしながら、親同士で日々の悩みや不安なんかを分かち合う会を行なっています。
発達の凸凹、貧困、シングル家庭など、背景はさまざまであるが、辛さなどで共感できることはたくさんあるので励まされたりするとのお声もいただいています。
■ 不登校から”学校”を考える
おしゃべり会を通して活動をしているうちに、不登校の中には、フリースクールや支援センターにいくお子さんは少なく、家庭で過ごすお子さんが多いことがわかりました。学校や地域の支援センターにハードルの高さを感じているお子さんにとって、一つのステップになったらいいなと、地域の徒歩圏内の場所に学びの場を設けました。
また、実はよく聞いてみると、元気になったら学校に戻りたい、学校でみんなと一緒に普通に学校生活を過ごしたいと思っているお子さんもすごく多いことがわかりました。
そこで、校内のサポートルームなど、すべての子供達が安心していられる場所はどういうものかということを考えはじめました。
さらに、校長先生を親の会にお招きして、先生の教育論や大切にしていること・親側が子育てについて大事にしていることなどを話しながら、学校の中で安心していられる場所がどういうものなのかというのを一緒に考えられればと思い、今年度からは先生をお招きして、おしゃべり会をしています。
学校に協力してもらえたことで、いくつかの小中学校で約2000枚ほど、おしゃべり会の開催チラシを配布することもできています。
■活動内容の紹介:
○おしゃべり会、相談会
月に1~2回ほど、おしゃべり会は平日、相談会は土日に開催しています。
おしゃべり会は地域のコミュニティスペースである「ぬくぬく亭」の営業後に、「となりのちから」専用で1時間半使用させてもらっています。
相談会、土日のおしゃべり会は公民会を借りて、居間のような雰囲気でお茶を飲みながら開催しています。
○うんどうの日、まなびの月曜日
・これらは子どもの居場所として開催しています。「うんどうの日」は、野外活動という感じで、山の施設を借りて、夏休みに集まって遊びに行ったり、親子ふれあいストレッチヨガなどをしています。「まなびの月曜日」は、公民館でやっている。地域在住の元校長先生に協力により、先生手作りの教材を用いて、遊びの中から、算数や国語、コミュニケーション学ぶ、ということをしています。
・その場では、これをやれ、あれをやれと言わない。寝ていてもいいし、本を読んでもいいし、プリントやりたい子はすればいい。みんなと同じことをしなくてもいい。その子の主体性をを見守ることを大事にしています。
○いのちの勉強会
先生をお呼びして行う親子に向けた勉強会です。性教育を扱ったりもしますが、多様性について考えるテーマを扱っています。
普通ってなんだろうということ。発達障害などの診断を受けたり、不登校だったりして、自分がおかしいんじゃないか、普通じゃないかも知れないと、自分を責めているお子さんの声を聞いて、普通って一体なんだろうねというお話をしてもらいました。
親御さんの方が、知らないことばかりで勉強になった、という声がありました。
■ ファシリテーターからの質問
広石: 地域にはいろんな居場所が必要ということでしょうか。西山さんは子どもたちに必要な居場所についてどうお考えになりますか。
西山:今は、小学校の低学年で不登校になっている子が増えています。そうして、親御さんが働けなくなって困っているという声を聞いて、私たちは、地域の中で子どもが一人で、学校のような感覚で行ける場所を作りたいということで活動しています。
フリースクールはお金もかかるし、支援センターは学校ぽくって嫌だという感じでハードルも高いという声も聞きます。
一方で、豊野町の教育支援センター(週に2回)は、こちらがイメージしているよりも柔軟に、子供に合わせて、子供のペースで、子供の声に耳を傾けてくれる方がたくさんいます。学校との連携もすごく感じるし、学校側のスタンスもすごく変わってきたなと肌で感じています。支援センターに行く子どもも増えています。
ただし、家でしっかり休んだ後に行くという感じですね。
小学校低学年で不登校になったお子さんはそのまま違う場所に行くことに抵抗がないけど、高学年から中学校に入ってから行けなくなったこは一回家で休む時間が必要な印象です。
家で休んだ後にどこへ行くの?となる時に、フリースクールではハードルが高いと感じる子もいれば、地域の野球やサッカーでつながっていて、外に出向くということに抵抗がない子もいますし、不登校から外に向くという過程も多様化しているので、何が正解かわからないですね。
でも、学校以外の居場所があればいいって話でもないと思います。
家庭、地域も含めて、子供の学ぶ環境ということころで、学びというのはどう捉えたらいいのか、学校や保護者、子どもとも話せたらいいなと思います。
広石:子供をめぐる環境は、10年前と比べても急激に変わってきているし、子どもも、地域も、保護者も変わってきているので、もっと共有していくような対話の場というのも必要なのかもしれない。地域に寄り添うファシリテーションには、子供を一回理解しよう、というのもテーマなのかも知れないですね。
「佐久平まるごとキャンパスにおける超高齢社会体験ゲームの紹介」
宮下尚輝さん 佐久総合病院 総合診療科
■ 自己紹介:
佐久総合病院で総合診療科の医師をしている宮下です。
「地域の参加者を増やして、住みやすい地域を共に創る~佐久平地域まるごとキャンパスとコミュニティコーピングの活動」についてお話しします。
総合診療科の専門性として、子どもからお年寄りまで、かかりつけ医になれる能力を持っているというものがあります。また、訪問診療に行くこともあり、病院医療だけではなく、生活により近い視点から患者さんのケアに関わる立場にいます。
総合診療科の関心領域は、予防医療・健康増進にもあり、健康な人・病気にかかっていない人が長い間健康でいられるように取り組んだり、病気にかかってからもより良く生活できるように手助けしたり、介護が必要になるまでの期間を延ばす、健康寿命の延伸に取り組んだりすることもあります。
私はその中でも、社会的処方と言われる、薬を処方するのではなく、社会的なつながりを処方するというアプローチに特に関心があり、地域の中で色々と取り組んでいく途中で、佐久平地域まるごとキャンパスにも行きつきました。
■ 佐久平まるごとキャンパス(以下:まるキャン)とは
・佐久地域の企業や地域団体の提供するプログラムに高校生・大学生らが参加したり運営もできる活動です。自分の興味に従って、主体的に、体験、企画、販売、PRなど色々な活動に参加する。ジャンルでいうと、農業、まちづくり、フェス、就活、アート、科学など様々あります。
・佐久平周辺に住んでいる様々な人の協力で多様な体験をしてもらう、探求活動ともリンクした活動になっています。
・今回のまるキャンでは、10/22に地域の他の病院のコミュニティスペースを利用して、コミュニティ・コーピングという超高齢社会体験ゲームを楽しむというプログラムを企画しています。
・ 以前、佐久市内で開催した時には、高齢者から小学生・未就学児までが一緒にこのボードゲームを楽しむことができました。世代を超えた対話を生み出す、ゲームの可能性を感じます。
(注:このゲームの対象年齢は、12歳以上となっています。ゲームとして楽しむ分には、小学生くらいでも楽しむことはできますが、現実と照らし合わせてゲームから深い理解を得るためには、中高生以上が望ましいようです。)
■超高齢社会体験ゲームについて
・このボードゲームは、実際のケースをもとに作成された住民らの悩みを、地域のさまざまな住民、専門職と4~6人ぐらいの参加者と協力しながら解決して、コミュニティの崩壊を防ぐ、擬似体験ゲームです。
例えば、一人ぐらしで家を買って生活、腎臓に持病があり最近は犬の散歩に行くのが辛くなってきた70代女性になりきって生活をして、30代、40代では親の介護、病気が見つかって心配という住民が登場しながら生活を進めていいきます。
・社会的孤立状態の人に、気づいて行動して、課題を解決するというプロセスを疑似体験するというゲームになっています。社会的孤立という問題を解消したいという目的で開発されました。
■ 超高齢社会体験ゲームを導入した問題意識
・現代では、社会的孤立、ヤングケアラー、介護離職、シングル、介護と育児のダブルケア、など制度の隙間で解決できない悩みを抱えている人が多いです。
・現状認識をして、ある日突然、自分や親が病気になったり、介護が必要になったり、離婚したりなどで、いきなり当事者に陥ってしまう前に、あらかじめ当事者意識を持って、こういう時に困らない地域を作らなきゃなという意識を持っていることが大事なので、あらかじめ「当事者」を増やす必要があります。
・このゲームでは、他の住民と繋がり、他の住民(専門職)の力を借りて地域課題を解決するというプロセスの疑似体験ができる。専門職に限らず、カフェのマスター、保険のおばちゃん、いろんなキャラクターと繋がって、自分の悩みや人の悩みを解決することが疑似体験でできます。
このような課題について高校生、大学生と一緒に体験することで、こういった問題は今制度を変えていかないと残り続けるし、そういう人が生まれ続けるということを体験しながら実感できることが良いところだと思います。
■今後の展開
・院内で他職種の任意団体を作っていますが、社会的処方の活動を発展させて、佐久周辺で一人ひとりのニーズに沿ったつながりの仕組みを行いたいと考えています。
・地域の様々なステークホルダーの協働を通じて、教育、福祉、食、農、など、いろんな職業の人と繋がっ暮らしやすく安心な地域コミュニティを創造したいですし、ニーズが合えば、長野県内の他の地域にも出張講座のような形で協力できると思います。
■地域での「学びの場」について大切なこと
・地域を良くしたい、より健康な地域を作りたいということで、そういうことができる場所とか人、人間関係があることが大事だなと思います。
・人との関係性としては、主体性を持って関わること、一方的な抗議じゃなくて対話的な関係、お互いの話を聞く、発展させる、肯定する、関わりしろを持っている人がどんどん繋がっていったら良いと思います。
・医療の分野では行動変容のためにとも言われていますが、そっと背中を押す仕組みだとか、感覚に訴えるような、楽しい/かっこいい/美味しい、といったところに、人々に訴えかけた方が行動が変わるといったところを意識してやっています。
4.参加者からの質問・感想
・(まるキャン事務局で関わっている方からのコメント)
皆さんの事例を拝見して思ったのは、相互に関わった人たちが、刺激を受けながら、活動を通じて、どんどん伸び代をあげていることが、事務局としてはやりがいを感じます。
中には中学時代に不登校だった学生が、今では企業の訪問したりとか、活動の先を広げてくれる人もいる。情報を提供すれば学生たちはどんどん可能性を広げてくれる。それによって町が活性していくのかなと思います。
・地域まるごとキャンパス、長野でも取り組みがあったりしますが、それが各地域の中で抱え込んでしまい、地域同士の広がりが弱い気がするので、もっと繋がって広がっていけたらと思います。
・私自身が学校がかなり苦手だったので、今日の西山さんの取り組みはとても尊敬できる活動だと思っています。勉強したくても「学校」が苦手な子供さんはいると思います。一方で、有志で続けるのも限界があると思うので、行政で予算付していただくことにつながると良いと思いました。
5.まとめ
今回のテーマについて、教育というテーマは誰もが必ず通ってきている道だからこそ、つい自分が教育を受けていた時の価値観で今の子供達を見てしまいがちです。
しかし、このように地域の現場で活動されている方々が感じる生の声を聞くことで、また地域や課題の捉え方が変わってきたりしました。これがまさに、地域課題の難しさと奥深さだなと感じました。
実践プログラムでは、勉強会で扱った地域の課題を踏まえて、長野県内各地でファシリテーター、コーディネーターとして活動する方が、地域でのそれぞれの実践経験を持ち寄りながら、「寄り添う対話 新時代への共創 」のより効果的な進め方を共に考えていきます。
10/14開催した基礎講座+アイデアソンでは、10月~2月に次の4つの”探究したい問い”を設定しました。
いずれも地域づくりの現場から生まれた問いであり、実践プログラム参加者だけでなく、ファシリテーターや地域づくりに取り組む方のご意見をいただきながら考えていきたいと思います。
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