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【開催レポート】テーマ別勉強会④「 輝く農山村地域を実現するには」を開催しました

2023年10月11日(水)19:00-20:00@zoomにて、これからの地域づくりテーマ勉強会を開催しました。今回のテーマは「輝く農山村地域を実現するには」です。
農業を仕事にする人を増やすことに限らず、まずは地域の魅力に気づき、農業を通して大人も子どもも楽しめる多くの世代が集う場所を持続的に作ることが、地域の活性化にもつながるという新しい活動のヒントが見える会となりました。

《開催概要》
開催日:2023年10月11日(水)19:00-20:00
参加者:7名
活動紹介:1名
「食農体験を通して地域の可能性を見直す」
 西沢和宏さん 天空の里いもい農場
事務局:長野県地域振興課、(株)エンパブリック

1. はじめに

今回も「まちむら対話と共創チャレンジ2023」のステップ2を進めていきます。
今年度からスタートしている「しあわせ信州創造プラン3.0」の中にもある、「輝く農山村」をテーマに話をしていただきます。
農業が盛んな長野県だからこそ、このような農業や山村をどのように守り、生かしていくのかについてお話を伺いました。

2. 長野県の課題・現状について

はじめに、長野県地域振興課の渡辺氏より、「輝く農山村」の実現に向けた長野県の現状と課題について説明がありました。

■ プロジェクトの位置付け
○ プロジェクトの位置付け①
・県では、概ね2035年の県の将来像を展望し、これを実践するための行動計画して、「長野県総合5か年計画『しあわせ信州創造プラン3.0』」を令和5年3月に策定しています。
・そのうち、現下の様々な危機を乗り越え、信州から未来を切り拓き、真にゆたかな社会を創るため、施策の新展開・加速化などを特に進めていく必要がある政策をピックアップし、「新時代創造プロジェクト」として取り組んでいます。

○ プロジェクトの位置付け②
・新時代創造プロジェクトというのは8つあり、今日は8番目のプロジェクトのお話です。
・このプロジェクトは何を目指しているかというと、時代と価値観の変化の中で、地域に今ある資源を最大限まで活用して、新しい価値が複合的に生み出されるような、オンリーワンの「輝く農山村地域」を創造していこうというものです。
・例えば、木材という地域資源があったときに、地域ぐるみの活動の展開とか、観光振興や教育などを含めて、さまざまなところに活用して、課題解決や、新しい価値の獲得に結びつけていければと思っています。

■ なぜこのプロジェクトをはじめたか。
○現状と課題
・農山村地域は都市部と比べて過疎地域が多い、著しい人口減少や若年者比率の低下が続いている、と認識しています。地域によって若干違いはあるとは思いますが、農業・林業・建築業といった生活に欠かせない産業の担い手不足、買い物・通院・物流などにおける条件不利性、北側の地域では豪雪の対応などの課題があります。

○ 地域の現状
・一方で、農山村地域というのは、豊かな自然や原風景・歴史・文化・特産品など高いポテンシャルを持つ資源があります。それ以外にも、さまざまな資源の供給、災害の防止などの多面的・公益的機能を担っています。10年ほど前の「白馬の奇跡」とあるように、地域の絆や助け合いの精神が根付いています。

○ 地域の現状②
・時代の状況の変化ということで、新型コロナウィルスの拡大を契機として、地方移住の関心が高まったり、テレワークの普及など、時間や空間にとらわれない働き方も広まりました。
・デジタルネイティブ世代であるZ世代が社会人になり、従来の価値観に変化が生まれているからこそ、農山村の新しい活かし方が見えてくると考えています。

○農山村地域をきらりと輝かせるには?
農山村地域が輝くためには、将来にわたって持続可能な地域にしていく必要があります。
時代の変化を捉えつつ、地域に今ある資源を磨き上げ、魅力を最大限に活用していくことが一つの突破口になるのではと県では考えています。その取り組みを調査しながら支援していければと思っています。
そして、その前提として「地域に今ある資源・価値への気づき」「地域ぐるみの意欲的な活動」が不可欠と考えています。
まちむら寄り添いファシリテーターの皆さんも、こういった部分に寄与している人たちなのではないかと思います。


3. 活動紹介

続いて、地域で活動の実践をおこなっている方から、活動の紹介を活動する上で感じていることをご紹介いただきました。

「食農体験を通して地域の可能性を見直す」
 西沢和宏さん 天空の里いもい農場

■ 自己紹介:
「天空の里いもい農場と」いうボランティア団体運営しています西沢和宏です。
3世代が集う食農体験フィールド、限界集落を会場にしてボランティア活動しています。

活動場所は、長野市芋井地区で、県庁から15分ぐらい山手に入ったところにあります。
ほとんど斜面にしかない、平地がない。農業するにも、生活するにも大変な場所です。飯縄高原も芋井地区で、こちらは人口が増えていますが、山間部は老齢化が著しいですが、見どころもたくさんあります。

■ いもい農場の紹介:
・私たちがお借りしている地域は、14世帯25人(高齢化率56%)の限界集落で、ここに「芋井社会会館」という使われていなかった公民館を活用しています。
こちらを地域からお借りして、近隣の遊休農地・田んぼ・りんごの木を地元から借り受けて、子供とその親、シニアまでの幅広い世代を対象に、食育・農業体験を中心にした活動の場を提供しています。2022年度は665人の参加がありました。
・4月から12月までの間に15回の活動を組んでいます。その間に畑の教室と銘打ち、ジャガイモの植え付け、田植え、さつまいも、白菜、大根の収穫、りんご狩りといった様々な活動をしています。
・毎回これらの活動は年間の頭に計画して、詳細は企画の前に運営スタッフがアイデアを持ち寄って組み立てをしています。

■活動で目指していること:
・活動にあたっては、下記の3つを活動の軸にしています。
1.農作業や野遊びを体験することで、自然を身近に感じて、子供たちの「環境・農業・食べ物を大切に思う気持ち」を育みたい。
2.中山間地域と都市部の人々との交流を図る
3.中山間地域の森や農地の保全、食文化の継承。発展につながることを目指す

・上記は、SDGsが叫ばれる前からずっと掲げていたんですが、これら全てSDGsに関連するねと後でスタッフのみんなで気づいたので、自分たちでSDGsのマークに当てはめてみました。関連づけたことで、地元の諸団体との関係も深まったと感じています。
・「高齢化・限界集落・担い手不足」「遊休農地の増大」「地域の活力がなくなってきている」などの課題に対しても、芋井農場の活動が課題解決の一助になっているということを、スタッフ、参加者、地域とともに共有することで、私たちの取り組みが進んでいます。

○特徴1:ボランティアであること
・ボランティアでできることで、対応できる範囲で。無理をしない。よそ者が通って盛り上げようと活動しているので対応も無理のない範囲でやる。
・活動の継続を第一に考え、農地の荒廃化を防止。活動が続けば草は生えなくなるので、継続を第一に考えている。
・多くの人が集うことで、地域に賑わいを届ける
・地元応援:援農ボランティアへ人的派遣
120人の年間登録があるので、コーディネーションしてボランティアに関われる人を必要なところに派遣していくという取り組みをしている。
・運営スタッフが今年は11人。全員農業が本業ではないので、安全対策として刈払い機の安全講習をしたり、安全に関する場づくりの目線合わせをし、事故を起こさないことを注意している。

○特徴2:地域との情報共有
・活動の様子・地域の情報はこまめに共有している限界集落でこんなことをしていたんだということが地域の人にも伝わりやすいように広報に力を入れている。
・広報としてブログに力を入れている。(活動レビュー)
・地域むけた情報共有は、回覧板として地元の人にもみてもらえるようにしている。
・「農民文学」2021年秋発刊 地元の人の声が寄稿された。このような地域で、関係人口を一人でも周りに配置しておくというのは山村が生き抜くための知恵の一つだと評価いただいた。

■運営スタッフについて
・運営スタッフ全員で目線合わせを大切にしており、運営スタッフ自身も「思い出の場」に参加していることを合意しています。社会会館の拠点を生かした、食農体験の充実、金星(を見る会)、大人のクラフト、など運営スタッフのやりたいを実現していきます。
・参加メンバーの中には、高大生やシニアもいます。参加メンバーであって、スタッフの役割を持つ。
できることを持ち寄って、取り組みを進めています。
・さらに、高大生が参加することで、学生が社会課題を考えるきっかけにしたり、公共交通機関を使って通ってもらうことでバス路線維持へ貢献したり、若い力が増えることで地域に賑わいを届けられるのではと考えています。


4.参加者からの質問・感想

Q. 今の農山村の課題や可能性、どういうことが必要とされていると思いますか。

西沢:いまい農場の環境は恵まれていると思います。まず、拠点としての公民館があり、その周りにたまたま遊休農地がありました。駐車場があって、トイレがあって、人が集まる条件がありました。そこに遊休農地があればなんでもできます。長野県には分校の跡地がたくさんあるので、それが宝物なのではないかと思います。他の地域でも広がる可能性があると考えます。

Q. 通いで活動を始めてみて、発見したこと、いいなと思ったことはありますか

西沢:日頃の仕事のストレスが、ここに来れば発散されるのがいいことです。
中山間地域は立地が不利なんですよね。しかし、地元の人には不利な雰囲気を感じない、それが当たり前という感じです。外野である私たちが騒いでいるだけでは、と感じることもあるくらいです。人の優しさ、暖かさ、人の営みは、都会の人たちには全く感じないことだから、都市部と中山間地域をつなげるとそれだけでも新鮮な体験活動になると思います。

広石:農山村で何気なく日常でやっていること、当たり前と思っていることが、都市部の人から見たら「すごい、面白い」ということだったり、実は資源はもっとあるのかもしれませんね。

西沢:バス停が集落の一番上にあって、標高700mなんです。公民館は標高600mのところにあるので、訪れた高校生や大学生はそこを歩くだけでも感動して帰っていきます。

Q. 子どもたちがたくさん活動に参加していますが、どういう理由で参加しているのですか。

西沢:今年の参加者は多様性に富んでいて、自閉症の子供なども参加してくれました。農業体験を持続的に継続して活動しているところが長野県にないのも理由の一つだと思います。子供に体験させてあげたいと言いながら、実は親が楽しんでいることが多いです。シニアや大学生など、自動的に多様な4世代が集まってきていると感じました。

広石:多様な人たちが一度に集まることが意外に都市部にはないのかも。それもまた一つのポテンシャルかもしれません。何より楽しいですよね。

西沢:安全を大切にしているので、刈り払い機の安全な取り扱いを、地元の人に教えてもらったりしています。参加者をできるだけお客さんにしないというモットーなので、参加者に率先して関わってもらいます。参加者の人足の持ち寄りでやっています。

Q. 西沢さん達のこのような活動で、芋井の集落を支える生業としての農業の維持、継続性を向上させているのでしょうか、そこへのつながりをどのようにお考えですか。

西沢:援農ボランティアの話がありましたが、私たちも参加者も農業のプロではないので、農業の維持というと、私たちにできることは、お助け、一助くらいしかありません。生業に関わるとなると、芋井に住まないと課題解決にはならないと思います。自分たちにできることとしては、このような体験活動を継続して理解者を増やしていくこと。担い手にはなれないので、バランスをとりながら活動を継続していくことだと思っています。

広石:関わってくれる人がいて、関心を持ってくれている、見捨てられていないというのだけでも価値があること。プロじゃないので生産物の品質には拘らず、みんなで一緒に作ったというのを価値にしているんですよね。
関心を持ってくれる人を増やすこと、という役割を意識しているのかなと思いました。既存の農家の人との交流についてはどうですか。

西沢:私たちは農業機材を一切持っていないので、地元の人に頼らないとやっていけないんです。機械系は地元と繋がりが必要ですね。お借りしている畑の周りの人たちとの関係を作っていかないといけないので、回覧板で活動通信を定期的に出して、怪しいことをしていないよ、というアピールをしています。

広石:情報をとにかく共有して、発信していって関係性を作るのが大事なのかも。

西沢:コミュニケションを図っていくと、地域のイベントへのお誘いをいただけるようになってきています。地域のお祭りなど、こちらも可能な範囲で関わるようにしています。

Q. 「きらりと輝くオンリーワン」というのが県のテーマですが、何が大事だと思いますか。どういう活動が増えたら良いと思いますか。

西沢:私たちは、遊休農地と公民館ですが、地域の普段見過ごしてしまいそうなところ目を向けて、気づけるかどうかが大事だと思います。
拠点と条件が整えば活動が広がるし、都市部の人たちにはニーズもあるので、似たような環境のところには似たような活動が広がるといいなと思います。

SDGsを掲げているので、水関係の話、地域交通の話、田んぼの話などを活動の度に地元の人と話して共有しています。農業の抱える諸問題は私たちが語るにはおこがましいと思いますが、地元の代弁者として、豊作や不作といった作物の状況を参加者と共有しながら、伝えながら、活動を組み立てています。

また、コロナでも活動が止まらず、工夫して持続できたということが、小さい畑に120人集める自信につながっていると思います。限界集落というと、どうしても塞がりがちなイメージですが、そこには必ず何か輝けるものはあるんじゃないか、それを探すのが大事なのかなと思っています。

芋井地区はとにかく眺めがいいところなので、そういうロケーションを使って、限界集落だけど、限界じゃないねという集落にしていきたいと思っています。




5.まとめ

農業×地域課題解決と聞くと、「農家を増やす」という解決策が浮かんでしまいますが、まず体験機会を増やすことから人々が農や地域について考えるきっかけを作るという方法もあるということを学んだ会でした。
長野県の魅力を活かした「農」「地域」への関わり方が様々な地域にも生まれることで、オンリーワンな輝く農山村地域が実現されていくのではと感じました。

実践プログラムでは、勉強会で扱った地域の課題を踏まえて、長野県内各地でファシリテーター、コーディネーターとして活動する方が、地域でのそれぞれの実践経験を持ち寄りながら、「寄り添う対話 ✖ 新時代への共創 」のより効果的な進め方を共に考えていきます。

10/14開催した基礎講座+アイデアソンでは、10月~2月に次の4つの”探究したい問い”を設定しました。
いずれも地域づくりの現場から生まれた問いであり、実践プログラム参加者だけでなく、ファシリテーターや地域づくりに取り組む方のご意見をいただきながら考えていきたいと思います。

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