まちむら寄り添いファシリテーター ・フィールドスタディ@木曽
住民と建物が共に生きることがつくる豊かさを、旧黒川小学校と地域のつながりから学ぼう

令和6年度のまちむら寄り添いファシリテーター養成講座では「フィールドスタディ2024」と題し、身近な人々の声に耳を傾けながら、未来につながるアクションを守り立てるまちむら寄り添いファシリテーターの魅力と可能性についてモデル地域(上田・木曽・佐久穂・駒ヶ根)に入って学び、その知恵を持ち帰ることを目指す、実践型フィールドスタディを開催しました。
木曽地区では、フィールド・コーディネーターの竹脇恵美さん(ふるさと体験 木曽おもちゃ美術館館長)と共に、6名のメンバーが学びを深めました。
「建物」は、役場、公民館、学校などの機能を担うために建てられますが、地域に住む人にとっては思い出の風景であり、誰かとの思い出が残る場所という意味もあります。例えば、学校が廃校になった時に、住民の思いを無視して建物を壊す、全く別の用途に使うことは地域の文化を消すことにつながるかもしれません。逆に、新しい建物は地域にどう根付いていけるかによって、住民にとっての価値も変わっていくでしょう。「建物は住民と共に生きている」という視点から建物と住民のつながりを見直すことによって、土地の文化を活かす地域づくり、建物を組み込んだコミュニティデザインを考えます。
旧黒川小学校・
ふるさと体験木曽おもちゃ美術館
2022年に開場した木曽おもちゃ美術館は、木曽の伝統文化にふれる「ふるさと体験」と「木のおもちゃの魅力発信」の場として多くの方が訪れています。この施設の魅力を高めているのが、旧黒川小学校の築90年以上になる木造建築の校舎です。美術館の「たいけんのやかた」では、歴史あふれる旧校舎の趣をそのまま活かし、地域に語り継がれるさまざまな「ふるさと体験」と、地域文化を後世に伝える民具や玩具を鑑賞できるようになっています。

実は、この旧黒川小学校の建物は、建設時に地元の人たちが木材を提供し、建設に協力して出来た木造校舎は、1997年に閉校後、2002年にリノベーションされ体験交流施設として活用されてきました。
地域にとって「学校」は、教育施設であるだけでなく、住民の思い出の共有やコミュニティ形成の拠点としての意味もあります。人口減少の中で教育施設として閉校したとしても、その建物は地域コミュニティにとっての意味も踏まえて存続や活用を議論することが大切でしょう。
旧黒川小学校は地域の人の思いが詰まっているものとして大切にされてきたからこそ、閉校後もコミュニティ施設となり、ふるさとを伝える施設として活用されています。この旧校舎はただの建造物ではなく、まちの人と共に生きている存在と言えるかもしれません。
旧黒川小学校の建物は地域にとってどのような存在なのか、建物にどのような思いを持ってきたのか、そして木曽おもちゃ美術館として活用されていること、これからの未来をどう考えているのか。このまちで「建物と住民のこれまで、今、これから」を理解することは、廃校の利活用はもちろん、空き家や使われていない建築物の活用を考えている方にも、また新しく地域に建築物を建て、運営する方にとっても、建物と地域のつながりを考える多くのヒントがあります。
フィールドコーディネーターの竹脇恵美さんと、ラーニングファシリテーターの新雄太さんによるフィールド・活動の紹介
【参考】
・ふるさと体験木曽おもちゃ美術館 ホームページ
(館内案内→「たいけんのやかた」)
・「体験棟 木造校舎の魅力を探る」に校舎の写真が掲載(外部サイト「里の物語」より)
・旧黒川小学校築造90周年企画(2018年 木曽町役場ホームページ)
木曽でのフィールドスタディでは、旧黒川小学校の卒業生や、前身の「ふるさと体験館」から関わっている皆さん、現在美術館のボランティアをされている皆さんなど、木曽おもちゃ美術館の歴史をふかぼるインタビューを行いました。


1)ふるさと体験 木曽おもちゃ美術館を知ろう(9月下旬)
美術館の見学を通じ、山間部ならではの古き農村の暮らしの様子とともに、木曽檜を活用したおもちゃで遊ぶ現代のライフスタイルの様子を拝見しました。
続いて、「なぜ、築90年以上にもなる旧黒川小学校を利活用することによって、これまで関わってきた人々の想いを繋いでいくのか」について、木曽おもちゃ美術館の成り立ちやボランティアによる運営の様子、地域の方々との関わりについて、館長の竹脇恵美さんにインタビューを行いました。
2)旧黒川小学校や美術館への住民の方の思いをインタビュー(10~12月)
住民の方、町役場の方などに旧黒川小学校をめぐるエピソード、語り継がれてきたこと、ふるさと交流の場として感じること、美術館に期待することなどをインタビューしました。どんな人に、どのようなことを聴くか、グループで考えながら行い、建物と住民の関係についての考察を行いました。
実施したこと:
①10月 行政職員の方へのインタビュー
当時行政の立場で関わったKさんから、首長を中心としたまとまりの強い黒川地域ならではの特性や、補助金をも活用したふるさと体験館の立ち上げの経緯、維持管理を行うNPO法人の組織についてのお話を聞くことが出来ました。
②11月 住民の方やスタッフの方へのインタビュー
・旧黒川小学校がふるさと体験館から木曽おもちゃ美術館に至った経緯についてインタビュー
・木曽の伝統食を手作りし、販売する「笹っこ」の皆さんから、黒川小学校が学校としての歴史を閉じる当時のことや変化、想いについてインタビューしました。
<インタビューした方>
・元木曽町町長Tさん
・旧黒川小学校卒業生Nさん
・元役場職員Tさん
・現おもちゃ美術館理事長Hさん
・笹っこメンバーの皆さん
③12月 学芸員の方へインタビュー
・学芸員の方(3名)に、おもちゃ美術館に携わるようになった経緯と、施設の今後の姿についてインタビュー
<木曽チームメンバーからのコメント>
木曽地域は、戦国末期にあった侵攻を黒川三郎が撃退したところから、近代にも続く団結力の強さの背景であった。土地は山林所有率が高く山と共に共同生活をしてきた。当時黒川小学校に通学していたNさんからは当時の生活風景が伺えた。家には機織り機があり養蚕を行い木曽馬も地域の人たちも共生が当たり前であった。
4)フィールド地域での学びのお返し会(2月)
廃校、空き家、新しい建物と住民はどうつながっていくことが豊かさにつながっていくのか。そのためにどのような活動を行っていきたいか。木曽での学びを自分の地域の人と分かち合い、活かす方法を考え、自分の地域の方で伝える会を行いました。


木曽チームは、木曽町の地域づくりや歴史、移住者の視点を学ぶため、移住者でありおもちゃ美術館の館長を務める竹脇さん、役場関係者の方、黒川地区の前町長や地域の住民の皆さん、おもちゃ美術館の学芸員の方など、多様な立場の方々へのインタビューを行いました。
最終報告会では、メンバーから今起きていることだけではなく、地域の歴史や背景を一つひとつ遡ることが地域の想いを受け止めることにもつながるということに気づいたということも話されました。
また、地域の団結力についての話が印象的であり、住民が黒川小学校を廃校後も維持し、ふるさと交流館やおもちゃ美術館へと発展させた経緯から、地域の中で小学校を守りたいという想いから生まれた信頼関係と、それらを実際に形にしていくためのリーダーシップの重要性を感じたという報告もされました。
最終報告会(2025年3月1日開催)での木曽チーム発表動画

フィールド・コーディネーター(FC)
竹脇恵美 ふるさと体験 木曽おもちゃ美術館館長
神奈川県横浜市出身。昭和62年御嶽山の麓、旧開田村(現木曽町開田高原)に夫婦で移住。様々なボランティア活動をしつつ地元の社会福祉協議会を経て平成30年よりシニア活動推進コーディネーターとして木曽郡内のシニアの活動を推進。令和4年9月より木曽町に開館した「ふるさと体験木曽おもちゃ美術館」の館長を兼任。令和5年4月より美術館の専任へ

ラーニング・コーディネーター(LC)
新雄太 東京大学大学院工学系研究科特任助教
建築設計・意匠、地域運営、空き家活用まちづくり等を専門領域としながら、長野県各地の様々な地域づくり事例に精通し、信州大学在職時には地域課題解決人材育成講座「地域戦略プロフェッショナル・ゼミ」に中心的な存在として携わる。多様な主体が関わるワークショップの開催経験も豊富。